【イベントレポート】山根基世が語る「朗読」の神髄。物語を読み解く「解釈」の力と、声で届ける魂の波動

元NHKアナウンサーの山根基世さんによる朗読イベント『山根基世 太宰治「魚服記」を読む』が昨年10月に開催されました。物語の世界に深く浸った朗読時間の後に行われた、観客との質疑応答の様子をダイジェストでお届けします。

太宰治『魚服記』をどう読み解くか:表現の裏にある「伏線」と「覚悟」

『魚服記』の解釈で一番難しいと感じた場面はどこでしょうか?

山根: この作品は非常に解釈が難しい箇所が多いですね。とりわけ冒頭の部分、一見すると無駄な描写のように思えますが、実はそこに重要な伏線があります。「コケを採集に来た都の色の白い学生」という存在です。読み込んでいくと、後半に登場する「たった一人の友達を追想した」という言葉と呼応していることに気づきます。これを理解して読むかどうかで、表現のニュアンスに大きな違いが生まれます。

また、作中の「疼痛(とうつう)」という言葉をどう解釈するか。私は、この痛みは「父親」に起因するものだと解釈しました。朗読において解釈は100人100様で自由です。しかし、大切なのは「自分はこう解釈した」という意志が、聞き手に伝わるように読むこと。音楽と同じで、基本の型(てにをは)を外さず、自分の解釈を声に乗せることが朗読の面白さだと思います。

新たな挑戦「オーディオブック」と、橋田壽賀子さんへの恩返し

オーディオブックという道をスタートされた理由や、名作ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の朗読で一人で何役も演じ分けるコツを教えてください。

山根: オーディオブックに関しては、かつてラジオ番組でご一緒した信頼できる仲間たちとの再会がきっかけでした。素晴らしい縁に恵まれ、二つ返事で飛び乗った形です。

また、橋田壽賀子先生の脚本を一人で何役も担当して朗読していますが、これには私なりの「恩返し」の気持ちがあります。昔、豪華客船「飛鳥」に朗読講座の講師として乗って、ご一緒になった際、橋田先生には大変親切にしていただいたのですが、お礼も十分に伝えられないままお別れしてしまいました。ディレクターからこのお話をいただいたとき、「神様が与えてくれた償いの機会だ」と感じたのです。

演じ分けについては、テレビで演じていた俳優さんの「顔」を思い浮かべるようにしています。その人の演技を真似るのではなく、顔をイメージすることで、自然とその人物像がくっきり思い描ける。すると、その人が、そのセリフを語るとき、どんな感情になるかも、自然に出てくるような気がします。

「朗読」の「朗」とは何か? 魂を揺さぶる波動の共有

「朗読」の「朗」という字には、どのような意味が込められていると思われますか?

山根: 非常に鋭いご指摘ですね。「朗らかに声を出す」と捉えがちですが、私も改めて考えさせられました。 あるミュージシャンが「外国語の歌詞などで、意味が分からなくても涙が出るのは、歌い手が魂を揺さぶり、その波動が聞き手に伝わるからだ」と言っていました。朗読も同じではないでしょうか。人間の魂の揺らぎが空気の波動となり、相手の心に届く。その魂が触れ合う瞬間は、人間にとってとても「朗らか」で、悦ばしいこと。そんな「魂の触れ合い」を目指していきたいですね。

絵本・紙芝居・朗読……表現は違えど「基本」は一つ

対象や媒体によって読み方は変わるものですが、共通する「基本」とは何でしょうか。

山根: 「声で伝える」という意味では、すべて根底は同じです。子どもを喜ばせたい、観客を驚かせたいという目的によって、表現の強弱や間の取り方に違いは出ますが、基本は「自然であること」に尽きます。

人間の肉体の生理に基づいた呼吸の中で、日本語の音の法則に従ってまっすぐ読む。これが一番伝わりやすい。NHK時代も「歌うな、まっすぐ読め」と叩き込まれました。その基本を踏まえた上で、どこをどの程度、強調するのか、抑えるのか、相手の心に届けるための工夫をする。それが、どのような表現媒体であっても変わらない「伝える」ための本質だと思います。


『山根基世の朗読シリーズ(太宰治)』
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次回朗読イベント開催決定!

山根さんの言葉一つひとつからは、テキストの背後にある物語を読み解く深い洞察力と、聞き手に対する真摯な姿勢が伝わってきました。技術を超えた「魂の交流」としての朗読。その奥深い世界を再確認させてくれる貴重な時間となりました。
質疑応答の中で言っていた「疼痛(とうつう)」の読み方。山根さんはどう表現したのか。現在発売中の『山根基世の朗読シリーズ(太宰治)『魚服記』を読む』で実際に聞くことができます。

そして山根基世さんによる朗読イベント、次回の開催が決定いたしました。今回は「太宰治 2days スペシャル」と題し、太宰の名作を深く味わう2日間をお届けします。

  • DAY 1:4月29日(水・祝) リクエストが多かった不朽の名作『走れメロス』を朗読。
  • DAY 2:6月20日(土) 太宰の命日・桜桃忌の翌日に開催。 師・井伏鱒二の紹介による結婚で再生をめざした時期の清々しさが伝わる『黄金風景』。 そして、家庭人としての責任と自己のエゴの狭間で揺れる心情を描いた遺作『桜桃』。

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